プログラマから見た「Windows 8」とは。概要と注目点のまとめ

開発担当の橋本孔明です。先日、社内向けにWindows 8の情報を発表したところ非常に好評だったため、内容を再構成してブログ記事化することになりました。プログラマ視点での情報に加え、「Windows 8 は、実はWindows バージョン6.2だった」とか「Metroスタイルの名称の由来」「イギリス英語が初めてサポートされた」などのトリビア(?)も取り混ぜてご紹介しています。皆様のご参考になれば幸いです。

本記事は公式発表やセミナー発表などの事実関係や用語に基づいて作成していますが、独自の解釈により、各メーカーの公式見解・用語等とは一部異なる可能性があることをご承知置きください。

 

Windows 8は、実はWindows バージョン6.2だった

「Windows 8」は、その名の通りWindows 7の後継となるクライアントPC版(非サーバー版)OSです。当初はコード ネームでしたが、正式名称としてそのまま採用されました。これまで同様、サーバー版も同時開発されており、そちらの正式名称は「Windows Server 2012」です。

ちなみに、Windows 2000以降の内部バージョン番号は、以下のようになっています。

  • Windows 2000 = 5.0
  • Windows XP (32bit) = 5.1
  • Windows XP x64 Edition(Windows Server 2003)= 5.2
  • Windows Vista(Windows Server 2008)= 6.0
  • Windows 7(Windows Server 2008 R2)= 6.1
  • Windows 8(Windows Server 2012)= 6.2

Windows 7、Windows 8とも、製品名はマーケティング的観点によるネーミングで、内部バージョン番号とは違うのが面白いところです。
内部バージョン番号は、テクニカルな実態を表しているので、Windows 8のOSカーネルはWindows 7から小幅な変更にとどまっていることが推測できます。

Windows 8は、後述する「Metroスタイル」の存在が際立っているため誤解を受けやすいのですが、新規追加された要素を除いた使い勝手などはWindows 7と比べて大きく変化しているわけではなく、従来アプリとの互換性も非常に高く維持されています。

 

Windows 8の製品区分と、特異なWindows RT

Windows VistaやWindows 7では、製品用途に応じて細かくエディションが分けられており、一部ではユーザーに混乱をもたらしていました。Windows 8では製品ラインアップの見直しが行われ、日本で一般販売されるエディションとしては「Windows 8」および「Windows 8 Professional」の2つのみとなりました。

無印の「Windows 8」がホーム ユース向け、「Windows 8 Professional」がビジネス用途やプロフェッショナル ユースに対応した上位エディション(無印に含まれる全機能も搭載)です。特殊用途としては、Professional相当品の大企業向けボリューム ライセンスとして「Enterprise」エディションも存在します。

このほか、初の試みとして、ARMプロセッサー ファミリーを搭載したスレートPC(MicrosoftはWindowsが動作するタブレット型PCをこう呼称しています)向けの「Windows RT」(「Windows 8 RT」ではないことに注意)が用意されます。こちらはデバイスへの組み込み販売のみの提供で、OS単体での販売は行われないとのことです。
Windows RTはWindows 8シリーズのOSという位置づけではあるものの、実行可能なのは後述のMetroスタイル アプリ(x86プロセッサー ネイティブではないもの)のみで、従来のWindowsアプリ(x86, x64用)は動作しません。この記事では、x86, x64向けWindows 8について解説していますが、Metroスタイル アプリに関する内容は、概ねWindows RTでも共通です。

 

Windows OSとしての改良点

Windows 7から改良された点も散見されますが、目立つものとしてはWindows エクスプローラー(フォルダウィンドウ)のリボン対応が挙げられます。リボンUIでは任意の機能を「クイック アクセス ツールバー」に格納することができるため、よく使う機能をまとめて好みのツールバーを作成するといったカスタマイズ性に富んでおり、上位ユーザーには恩恵の大きな機能といえるでしょう。

このほか細かい点ですが「ひとつ上のフォルダへ移動」ボタンがWindows XP以来の復活となったり、(指定したフォルダで)「コマンド プロンプトを開く」「PowerShellを開く」といった玄人好みな機能も標準サポートされています。

ファイル操作についても強化され、ファイルのコピーや移動の際に表示される進行状況ウィンドウが大幅に改良されました。複数の処理を実行している場合もウィンドウはひとつに統合され、それぞれの処理について一時停止ができるようになったため、先に終わらせたい処理以外を止めておくといったことも可能になりました。上書き確認についても、他の処理が終わってからまとめて表示され、ファイル内容の確認や個別の実行・不実行のチェックなどができるようになりました。

新しいデバイスやファイル形式などについては、USB3.0に標準対応したほか、CD/DVDのISOイメージ ファイルを直接ドライブにマウントする機能を標準サポートしています。開発環境や新版OSなど、ISOファイルで配布されるデータを扱う機会の多い開発者を中心に有用な機能となりそうです。

 

これまでのWindowsはバージョンアップするごとに肥大化していましたが、Windows 8では見直しが行われ、Windows 7よりもメモリ使用量の削減や起動の高速化が図られています。必要動作環境の指定についてもWindows 7から変更されていません。スレートPCやUltraBookといった、比較的貧弱な環境での動作を主眼に置いたチューニングが施されています。

Windows 7まで可能であった「クラシック スタイル(Windows 95以来の旧式デザイン)」への変更機能は廃止されました。代わりにサポートされる「Windows ベーシック」デザインは、基本的に標準デザインの透明感を無くしただけであるものの、後述するMetroスタイル アプリに合わせたのかフラットな印象の強い外観で、かつてのWindows 2.0あたりのデザインを思い起こさせるものとなっています。

 

日本人にはあまり馴染みのない機能ですが、多言語対応についても強化され、アカウントごとに使用する言語を切り替えられるようになりました。アメリカでは「親はスペイン語、子供は英語」といった使い分けも多いようで、そういったケースに対応するための機能強化です。また、意外に聞こえますが「イギリス英語」が初めて(ユーザー エクスペリエンスに使用する言語として)サポートされているのも特徴です(イギリス英語とアメリカ英語は日本人が想像する以上にいろいろ違いがあります)。追加言語はこのイギリス英語を含め14個あり、合計109の言語でWindowsを使用することができるようになりました。ひとつの新言語のユーザー エクスペリエンスには200万もの語彙(ハリー・ポッター シリーズ全巻の約2倍)が含まれているとのことで、その作業の大変さが推察されます。

 

互換性に配慮した標準搭載ランタイム

Windows 8は「DirectX 11」と「.NET Framework 4.5」を標準搭載しています。これらの旧バージョンに目を向けてみると、DirectXは9以降が標準搭載されています(それ以前のバージョンの利用には別途ランタイム ライブラリの導入が必要)が、.NET Frameworkについては3.5以前は標準では搭載されていません(.NET Framework 4.0については4.5下でそのまま動作します)。

.NET Frameworkに関しては、後方互換のための補助機能が搭載されています。例として、.NET Framework 3.0で開発されたアプリを起動してみると、「お使いのPCにあるアプリには、Windowsの次の機能が必要です」とのダイアログ ボックスが表示されます。このダイアログ ボックスの選択肢として「この機能をダウンロードしてインストールする」という項目が用意されており、インターネット接続が有効な状態であれば、.NET Framework 3.5ランタイム(.NET Framework 2.0および3.0のアプリも動作可能)を自動的にダウンロードおよびインストールすることができます。

このようにアプリの互換性については入念な注意が払われており、システムの深い部分に影響する特殊なアプリや、動作保証の関係で未知のバージョンのWindowsを意図的に拒否しているようなものでない限り、Windows 7で動作しているアプリの動作互換性についてはさほど心配することはないでしょう。

 

クラウド時代のOS機能

クラウド時代のOSとしての機能強化も行われています。そのひとつは「WindowsアカウントとMicrosoftアカウントの統合」です。これまでWindowsのログオンに使用するアカウントと、Webサービスで使用するアカウント(Windows Live ID)は全く異なるものとして扱われてきましたが、Windows 8では「Microsoftアカウント」(従来、.NET PassportやWindows Live IDと呼ばれていたアカウント体系がこれにあたります)を直接使用してのWindowsへのログオンが可能となりました(従来型アカウントへ後から別のMicrosoftアカウントを紐付けすることも可能)。

同じMicrosoftアカウントでログインしている場合、後述のMetroスタイル アプリのみならず通常のデスクトップ アプリ(対応しているものに限る)でも設定やデータのローミングが行われ、どのPCでも同じ設定を使い続けていくことが可能になりました(例として、Windows エクスプローラーのカスタマイズ結果がアカウントの同一なPC環境間で引き継がれます)。Metroスタイル アプリについてはダウンロードや購入などもID単位での管理となるため、ホーム ユースなどにおいてもログオンIDの個人化が進んでいくことになりそうです。

 

Metroスタイルとは。Metroという名称の由来

Windows 8を語る際に必ず採り上げられ、また事実最重要なファクターでもあるのが「Metroスタイル アプリ」プラットフォームです。Windows 8を起動した際に必ず現れるようになったためユーザーの目に触れやすく、これまでのWindowsとは全く異なる外見であることからある種の拒否反応を起こしがちですが、それだけMicrosoftが本腰を入れてサポートしているものでもあり、今後の流れについても注視していく必要があるでしょう。

そもそもこのような変化が求められた背景には、市場の広がりが期待されているスレートPCにWindowsを対応させていく必要があったという事情があります。タッチ操作を中心としたスレートPCの操作性には従来のWindowsアプリのユーザー エクスペリエンスでは適合しにくく、またスマートフォンやタブレットのアプリは単機能に特化し全画面を占有するタイプが主流となっていることから、それらの流れを採り入れた新しいプラットフォームを設計することになったのでしょう。

 

この新プラットフォームの設計にあたっては、米Microsoft本社のスタッフが日本法人を訪れた際に感じ取った事象が深く関わっていると説明されています。日本語に不慣れな米国人スタッフが、成田空港から東京にある日本マイクロソフトのオフィスまで特に迷うことなくスムーズにたどり着けたため、その要因を探ったところ、地下鉄を始めとする公共交通のサイン システムが非常に優れていることに気づいたとのことです。このことから、公共交通のサイン システムの利点をユーザー エクスペリエンスに採り入れ、フランス語で地下鉄を意味する「Metro」をその名称に据えて完成したのが「Metroスタイル アプリ」プラットフォームです。

デザイン面でも公共交通のサイン システムが参考にされており、まさに駅や空港の案内図のような「単色のシンプルなピクトグラムの使用」「タイポグラフィの重要視」「コンテンツの区切りとしてのボーダー ラインやボックス要素の排除」などが行われています。従来のような「3D要素」「グラデーション要素」「鮮やかな配色」などはばっさりと切り捨てられました。

 

Metroスタイル アプリとは。技術的特徴について

Metroスタイル アプリ プラットフォームWindows 8のほか、Windows Server 2012およびWindows RT(ARM版)でサポートされます。CPUアーキテクチャの異なるARM版においても、アプリをCLR中間コード形式(あるいはHTML+JavaScript形式)で開発している場合はそのまま対応できる予定です。次期Windows Phoneへの搭載も噂されており、スマートフォン上でもそのまま動作させられる日が来るのではないかと予想しています。

アプリ開発はCLR(中間コード方式)を使用したC#VB.NETのほか、C++/CX(C++/CLIベースの新規設計言語)を使用したネイティブ コード開発(速度面が重視されるゲームなどを想定)や、HTML+CSS+JavaScriptを使用しての開発も可能です。幅広い言語に対応することで、それぞれのジャンルの開発者がスムーズに移行しやすいよう配慮されています。

C#・VB.NET・C++/CXで開発する場合は、ユーザー インターフェース設計用の言語としてXAML(ザムルと発音します)を別途使用します。XAMLはWPF(Windows Presentation Foundation)やSilverlightでも採用されているXMLベースのユーザー インターフェース設計用言語ですが、Metroスタイル アプリ開発用途としてもそれらと高い互換性を持った書式になっており、WPFやSilverlightの開発経験がある場合にはよりスムーズな移行が可能となるでしょう。

開発に使用するAPIとしては新規設計の「WinRT」(Windows Runtime)が搭載されています。従来のWin32 APIはごく一部の例外を除いて使用できず、基本的にこのWinRTに含まれるクラスを学習し直す必要がありますが、基本的な用途に必要となる機能は揃っていますのであまり困ることはないでしょう。

Metroスタイル アプリは、ユーザー エクスペリエンスの設計についてかなり厳密なガイドラインが規定されているのも特徴です。全体的なアプリケーション設計について多くの指針が規定されているのはもちろん、各アイテムの配置位置や寸法・間隔、用途に応じたタイポグラフィのフォント サイズなどに至るまで具体的な数値が示されており、それらに準拠したアプリを揃えることで、ユーザーがMetroスタイル アプリ全般の使い勝手を習得しやすいように配慮されています。

アプリはサンドボックス内で実行され、特殊な用途を除きシステム内部や他アプリ内部などへの干渉を行うことができません。後述する配布形態と合わせ、マルウェアの混入を極力避けるために多くの努力が行われています。

Metroスタイル アプリ全画面実行を基本とし、明示的に終了させる方法は一応用意されているものの基本的に「起動したまま」となります。アプリの切り替えは[Windows]キー押下による「スタート」画面への移行(そこから別のアプリを起動)、あるいは画面端をスワイプすることによるアプリ間の切り替えによって行われます。未使用アプリは停止状態となり、メモリが逼迫するような状態になるとシステムによって自動的に終了されます。

1366×768ピクセル以上の解像度を持った環境では「スナップ表示」が可能で、これは特定のアプリを画面の右または左に320ピクセル(固定幅)で「スナップ」し、残りの領域に他のアプリを通常起動するモードとなります。スナップ表示にはアプリごとに専用の画面が用意され、「常駐アプリ」的な使い方が想定されています。

 

Windows Store

Metroスタイル アプリの配布(販売)は原則としてWindows Storeを通して行われます。Windows StoreはMicrosoftがMetroスタイル アプリ専用に用意するマーケットで、ちょうどiOSでいうAppStore、AndroidのGoogle Playストアに相当するものです。

アプリの配布や購入はMicrosoftアカウント単位で管理されており、購入履歴も保持されます。前述のようにアプリ設定なども基本的にクラウド経由でローミングされており、システム入れ直しなどを行っても以前と同じ状態への復旧は簡単です。

 

Windows Storeへのアプリ登録にあたっては審査が行われており、ユーザー エクスペリエンスの設計に問題があったり、危険な動作が見込まれるアプリケーションについては審査を通りません。このため安全性が担保され、Windows Storeのみを通してアプリケーションを入手していけば、自動的に安全なシステムが維持されるという仕組みです。

Windows Storeではアプリの配布のほか、自動アップデート課金(アプリ自体の購入のほか、アプリ内部の要素への個別課金など)、試用版・体験版の設定を行う機能なども総合的に提供されており、アプリ開発にあたって重要なこれらの要素を簡単に、ユーザーから見ても統一されたインターフェースを持って採り入れることができます。

 

おわりに

Windows 8は、「スタート」ボタンの消滅など、Windows 95以来では初の大幅なユーザー エクスペリエンスの変更が含まれるOSとなります。ただし、この変更は主に「Metroスタイル アプリ」プラットフォームの導入によるもので、従来部分の互換性は高く維持されているため、旧バージョンのWindowsからの移行も容易でしょう。

互換性の維持はMicrosoftも全力を持って取り組んでいる要素であり、既存資産が膨大な量となっている現在では、従来部分を大幅に変えることはもはや困難です。Metroスタイル アプリとの二本立て体制となったのもそういった理由が考えられます。

MicrosoftとしてもすべてのアプリをMetroスタイル化していくことは考えていない(推奨していない)と発言(セミナー等にて)しており、プロフェッショナル向けの画像編集ツールや開発環境といった大規模アプリは今後も従来のデスクトップ スタイルでの提供が続くことになるでしょう。他のスマートフォンOSも含め、アプリの用途に応じたプラットフォームの選択の重要性は、今後ますます高まっていくことになりそうです。

2012年11月1日追記

Windows 8が10月26日に発売されました。Widows 8の使いこなし術や簡単にシャットダウンができるプログラムなど、新しいエントリーを書きました。よろしければご覧ください。

Windows 8を使いこなす鍵は「Windowsキー」にあり

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コメント

1件のコメント

  • 2012年8月17日 10:32

    WinRTをWindows7内で実行できる仮想環境を提供してくれれば良かったのに。WinRT環境をインストールできる(デスクトップを乗っ取る)でも良かったし。XPの時も思ったけど、7のままでいいです。これ以上変更しないでください。誰も望んでいませんから。デスクトップPCは7で十分です。

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