田中圭一のゲームっぽい日常 街のパン屋さんみたいなマンガの売り方

k1_201403数年前、編集家の竹熊健太郎さんは言った。

近い将来、インターネットがメディアの主戦場になるだろう。その時代に、マンガの売り方も様変わりするはずだ。自分は、少数の固定ファンを相手に、彼らが求めるマンガを確実に配信する、例えるなら街のパン屋さんのような出版社を目指す。

そう言って竹熊氏は「電脳マヴォ」という独自のマンガサイトをオープンした。

あれから数年経ち、紙の商業出版は今、販売数の伸び悩みから大きな曲がり角に来ている。それは同時に、マンガ家も曲がり角に立っていることを意味する。

以前にも、このコラムで書いたが、ネタ系のショートギャグはフリーのネットコンテンツによって、マネタイズがとても難しくなっている。どうやら、それはエッセイマンガも同じみたいだ。

私は青木光恵さんのエッセイマンガが昔から大好きだった。

趣味人である青木さんが、自分の好きなもの(マンガ、アニメ、少女・特に制服を着たJK、コスメ、衣服、動物など)について語る。

それのどこが魅力的で、どんな理由で自分はそれが好きなのか、柔らかい丸っこい絵で、本当に楽しそうに活き活きと解説してくれる。

読んでいるうちに、あたかも喫茶店でお茶しながら青木さんと会話しているような気分になれる。
それが、青木エッセイマンガの魅力である。

ところが昨今の出版不況から、青木さんへの連載依頼が減っているというのだ。

とても魅力的なエッセイマンガなので、雑誌のアンケート結果は悪くないという。だが、単行本が売れない、この事実が出版社から作家への原稿依頼を少なくしている。青木ファンとしてはゆゆしき事態だ。

ところがどっこい、青木さんは前述の「街のパン屋さんのような販売方法」を始めたのだ!編集者である旦那さんと「スマホで光恵ちゃん」という電子書籍を刊行してパブーとアマゾンで販売し始めた。

読んでみると、青木マンガの魅力を120%引き出したじつに素晴らしい個人雑誌だ。

まず、スマホで読むことが前提なので、全ページオールカラー。エッセイマンガの他に、アイドルが主人公の萌え4コマや、街で見かけた制服女子のイラストと解説のコーナー、読者からのメール紹介など、40ページ程度の「青木光恵ワンマンショー」だ。

ざっと20分くらいで読み終えて、1冊250円~300円。朝の通勤電車の中や、お昼休みに喫茶店で読むのにちょうどいいボリュームだ。

紙の出版社がようやく電子書籍に本格的に取り組み始めた昨今、青木光恵さん(と旦那さん)は、一歩先を行っている。スマホに特化したエッセイマンガ雑誌、しかも出版社を介さない「街のパン屋さん方式」だ。

この試みが成功することは、同業者たる私にとっても福音だし、なによりも青木光恵ファンにとって新作が定期的に読めるスバラシイ機会だ。

これを読んで興味を持った人は、ぜひ青木さんのサイトをチェックして欲しい。

タグ , , | 2020/06/16 更新 |