「イーコマースフェア オンライン 2021」セミナーレポート:パル堀田氏が語る、オンライン一択になったからこそ気付いた3つの大切なこと~パルクロ流 成長しつづけるためのECサイト戦略~

2021年2月~10月にかけて、EC・通販業界に向けたオンラインイベント「イーコマースフェア オンライン2021」(主催:インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社)が全7回にわたり開催中だ。9月9日は講演企業の対談形式による「ユーザーDay」で、各種セミナーが配信された。

そのうちの1つ、「パル堀田氏が語る、オンライン一択になったからこそ気付いた3つの大切なこと~パルクロ流 成長しつづけるためのECサイト戦略~」には、パル・堀田覚氏、コマースニジュウイチ(以下、コマース21)・松本怜士氏、ウェブテクノロジ・三上夏代氏が登壇し、多数のアパレルブランドを全国展開するパルグループのEC戦略と、それを支える技術について語り尽くした。

イーコマースフェア オンライン2021
https://www.ecfair.jp/online_2021/

登壇者

パル プロモーション推進部Web事業推進室/コミュニケーションデザイン室 執行役員堀田覚氏

コマース21 ECエンタープライズ事業部 セールス&マーケティンググループ マネージャー松本怜士氏

ウェブテクノロジ セールス・コミュニケーション部 リーダー三上夏代氏

パルは複数のブランドを持つアパレル企業だ。広く知られるブランドとして「CIAOPANIC」「mystic」「Lattice」「russet」などがあるが、最も著名なのは“スリコ”の愛称でも知られる「3COINS」だろう。店舗運営に加え、近年はECにも注力しており、公式オンラインショップ「PAL CLOSET」の伸長が目立つ。

PAL CLOSET(パルクローゼット) - パルグループ公式ファッション通販サイト
https://www.palcloset.jp/

今回のセミナーでは、統括責任者である堀田覚氏が、同社のEC戦略やコロナ禍での変化、EC運営で大切にしていることなどを紹介するとともに、システムの運用保守を行うコマース21が技術面を説明。さらにウェブテクノロジの画像軽量化ソリューション「SmartJPEG」の導入効果にも触れている。

SNS・店舗・ECでサイクルを生み出すパル流のオムニチャネル

堀田:

よろしくお願いいたします。最初に私どもパルの紹介をしますが、、創業1973年で現在55ブランドを展開しています。2020年度の売上高は1,085億円。そのうち237億円がECで、EC化率(売上シェア)は31.4%となっています(ファッション領域のみ)。55ブランドはほぼ自社ブランドでやっています。

2年前まで売上利益ともに順調に伸びていましたが、やはりコロナで打撃を受け、2020年は店舗の閉店・休店などがありました。ただ、なんとか黒字は確保しています。また、ECは非常に伸びています。5年前(2015年度)は50億程度で売上シェアは5%でしたが、2020年がさきほど述べたとおり237億円。今後数年、具体的には2023年度には500億円規模を目指しています。ちなみに閉店・休店もありましたが、店舗数は930店前後でここ数年はほぼ横ばいですね。

パルグループの業績推移 (2021年2月期決算説明会資料より)
パルグループのEC販売計画実績推移 (2021年2月期決算説明会資料より)
堀田:

パル流のオムニチャネルなんですが、SNSを重要視しているのが特徴です。SNSやブログで顧客を実店舗・ECに呼び込み、接客で顧客データを蓄積し、長期利用やLTV向上を促すというサイクルを、5~6年前から構築しています。店舗でアプリを勧めるということもやっていますね。SNSはInstagramがメインですが、最近はYouTubeの動画も活用しています。

基本はスタッフが運用する「スタッフアカウント」が中心になっていて、従業員約3,500名のうち1,300人ぐらいが投稿しています。フォロワーは総計で500万人ほどになっています。また、店舗で勧めている「PALアプリ」のダウンロード数と、Webのみの会員数の合計は、2020年度で417万人になりました。今年で600万人、数年以内で1,000万人を目指しています。

PAL流 オムニチャネル
堀田:

最近は「3COINS」を注目いただいてますが、圧倒的に著名なブランドは持っていないと考えています。それを踏まえたオムニチャネル戦略が、パルのEC戦略の特徴ではないかと思います。

"パルクロ流EC運営"について。ECサイトの魅せ方にもひと工夫

三上:

ここからは質疑応答形式で進めます。最初の質問ですが、ECサイト運営で一番大切にしていることは何でしょうか?

パル 堀田氏
堀田:

EC自体は、1つのツールに過ぎません。会社全体の戦略があり、お客様がいて、環境変化があって、ということなので、そこのつながりを常に意識しています。「ECはこうしなきゃいけない」といった考えではなく、整合性が一番大事だと思っています。パルだったらパルの強みを活かす形、競合とは必ずしも同じでなくても良いと考えますし、いまお客様が求めていることはそもそも何なんだろうということを、どこまでも考えますね。“最適解を求めつつ自分たちの道を行く”ことが重要だと思います。

三上:

「PAL CLOSET」の利用顧客の年齢・性別はどのような状態でしょう?

堀田:

やはり扱っている商品ラインアップの関係上、95%が女性ですね。ただブランド数が多いので、年齢層は幅広く均等に分布しています。特に20~40代だとそうですね。

三上:

サイトへの流入のきっかけとしては、何が一番多いんでしょう?

堀田:

ここ数年、特にコロナ禍になってからの1~2年は、アプリからの流入が急増しています。いま40%以上はアプリからの流入になっています。相互送客のため、店舗でアプリ会員を増やしているということもありますが、間もなく50%を超えると推測しています。ただし「新規顧客」ということで限れば、「Web検索」と「SNS」という2つが、入り口として機能しています。

三上:

ブランド数が多い一方で、年齢層が幅広く均等に分布しているという場合、サイトのトップページなどに誘導の工夫が必要になると思います。自社ECのトップページについては、どのような工夫を行っていますか?

ウェブテクノロジ 三上氏
堀田:

いろんな視点があると思いますが、実店舗で展開していったブランドを集めたものなので、当初はモールとしてはわかりにくい面がありました。そこでわかりやすくするため、半年前から「カジュアル」「オトナ」「プチプラグッズ」の3つの入り口を設けました。やはりお客様をセグメントしないと企画が刺さらないとか、回遊してもらえないとかのマイナスがあったので、そこを改善しました。

三上:

この3つの切り口は新鮮ですね。

三上:

PAL CLOSETでは「スタッフスナップ」と「インフルエンサースナップ」と表現が区分されていますよね。この辺りはどういうこだわりなのでしょう?

堀田:

当社のECは、どこまで行ってもスタッフ中心だと思っています。一方で、インフルエンサーのコーデも素敵なポイントが多いし、魅力的な画像がうちの中に増えるなら、お客様にとってプラスになると考え提携しました。“見せ方・魅せ方の切り分け”と捉えてもらうといいかもしれません。

コマース21 松本氏
松本:

サイトデザインの変更は、何を指標にしていますか?
データやお客様の声がありつつも、頻繁にサイトデザインを変更するにも、指標がないと統一感がなくなる恐れがあります。

堀田:

まずは顧客アンケートですね。そこで気になる要望があれば、その先は社内で議論します。お客様とはいっても千差万別なので、そこは議論を重ねますが、お客様の声が一番だと思っています。

三上:

スタッフの商品説明だけでなく、お客様の声も閲覧可能になってますよね。1つの商品に100件ものクチコミがついてたりして。わかりやすく伝えることに工夫をこらしているのを感じます。

コロナ禍によるゲームチェンジ、さまざまな「前提」が変化した

三上:

ここからはサイトだけでなく、広くEC戦略について訊きたいと思います。これまでパルさんでは、店舗とECのオムニチャネルを進めてきたとのお話でしたが、コロナ禍が進んだことで、「オンライン一択」というお客様が増えたのではないかと思います。堀田さんの心境なども含め、どんな変化がありましたか?

堀田:

コロナ禍になって1年半以上経ち、いろんな変化があったと思いますが、一番ショッキングだったのは店舗の休業でした。それによってゆるやかなECシフトだったのが、急激に移行してしまい、そこでいろんな前提が大きく変わりました。店舗への導線が断ち切られたこと、ECで初めて服を買うというお客様が増加したこと、こういった衝撃的な出来事が重なって、あらためて「お客様がECで迷うポイント」が判明しました。

こちらの思い込みがリセットされた。これはデータやカスタマーサポートの声からも実感しました。そうしたことから「情報をキチンと届けないとダメだ」と思い直しました。当社の基幹事業は専門店小売業なので、「お客様の買いやすさに全力を投下しないといけない」と痛感した。そこで、ECサイトについても、いろいろ商品情報や画像・動画、スタッフによるレビュー、シーン例を増やすなど、商品詳細ページにだいぶ力を入れました。こうした造りで“接客体験に近いもの”を感じてほしいということに、一番重きを置いたと思います。

三上:

コマース21の松本さんにも聞きたいんですが、コロナ禍で変化はありましたか? 運用担当されている企業さんからの相談が増えたりといった事象はありましたか?

松本:

2020年は、2月・3月からコロナ禍が本格化したことで、4月・5月にECシステムへの投資の見直し・ペンディングを判断される企業様もいらっしゃいました。企業様によっては9月ぐらいまで停滞がありましたね。ただその中で、コロナに対応するにはどうすればいいかという問い合わせも増加しました。パルさんは2020年4月時点でECシフトを打ち出していました。この時期に決断・チャレンジされた企業様も多く、ここで差が生まれたと思っています。

堀田:

誤解がないように補足しますと、逆に「いまここで決断できないと、がっつり会社を伸ばせない」と、その時期に思ったんです。特に店舗が休業となると、ECの責任者として会社を背負う気持ちがあって、他を犠牲にしてもスピードを重視せざるをえない部分もあり、ある種強権を発動して社内的にも強く進めました(笑)。そもそもデジタルが広がり購買習慣が絶対変わっているのですから、ECシフト自体が避けて通れない問題です。リアル店舗での購買が減っていて、時間を巻き戻すことはもうできない。(2020年4月ごろが)やるべきことが変わった瞬間だったと思います。

三上:

新しいEC戦略で重視している点はどういったことでしょう?

堀田:

うちは小売業という前提があり、店舗の従業員たちが輝かないといけない。同時に多くのブランドを扱っており、それぞれのブランドにアイデンティティがある。これらの個性やアイデアを、ムリヤリそいで一本化しようとは思っていません。“PAL CLOSETとしてのメッセージの一貫性”は重視していますが、それぞれのブランドの考え方もあります。そこの融通が利くようにしようとは考えています。たとえば具体的には、手間暇がかかっても撮影などは、各ブランドのこだわりを活かしています。

システムを選ぶときも視点は同じです。「我が社はこうだからこうしてくれ」と固定するのでなく、我が社が大切にしている体質や文化にマッチしているか、柔軟に対応してもらえるかを重視し、先方のかなり上の方とも話をして導入を決めたりしています。

特に大事だなと思うのは、その会社のやっていることに「センスがあるか」ですね。コマース21さんとは5~6年ぐらい前からご一緒していますが、毎週のように相談しています。コマース21さんはそういうことを理解している・解決できる、という前提の会社なので安心しています。ありがたいです。

松本:

お褒めいただき、ありがとうございます(笑)。私たちはECシステム構築に技術的な知見は持っていますけれど、“消費者のホンネ”までを消費者から直接聞くことはできません。ただ「買いやすいか」「不便じゃないか」ということは常に考えています。そういう消費者の視点を持ちつつ、技術面からの視点も加えて提案している、というスタンスです。

効果の大きさや他サイトでも採用されている安心感から、SmartJPEGを提案

三上:

画像の軽量化には、当社の「SmartJPEG」を導入いただいているとのことですが、その経緯などをお聞かせください。

堀田:

パルの展開ですが、2020年からのコロナ禍の広がりで、徐々にオンラインの利用が増えました。さらに2020年9月から「3COINS」のEC化に急遽踏み切ったことで、コンテンツも画像も増え処理が重くなり、課題感が出てきました。そこで処理速度の解決を行うため、AWSへの切り替えを行うと同時に、SmartJPEGを導入しました。

AWS、SmartJPEGのいずれもコマース21さんからの提案ですが、大幅なサイト軽量化ができたことで、お客様の利用環境が速くなったと思います。また軽量化により当社としても経費を抑えられるようになりました。

三上:

PAL CLOSETでは、いまどれぐらいの画像点数があるんですか?

堀田:

商品画像、ニュース画像をあわせて、約1,000万点ですね。

三上:

それだけの画像点数だと、かなりのスピード改善・コスト削減などの効果があったのではないでしょうか?

堀田:

スピード改善については、具体的なデータはいま手元にありませんが、画像ファイルを表示するためのCDNサービスの利用料金は、30%ほど削減されましたね。

三上:

コマース21様がSmartJPEGを提案したのはどういった経緯なのでしょう?

松本:

アパレルは画像ありきですから、見栄えと処理スピードは重要だと考えていました。問題が起きると消費者の利便性が悪くなる。そうした未来を避けるためのソリューションとしてAWSとSmartJPEGの活用を提案しました。

当社顧客でCDNの料金が高騰したときがあり、SmartJPEGを導入した結果、費用削減を行うことができました。パル様も商品画像・コンテンツを増やして転送量が大幅に増えていたので、SmartJPEGで大幅な効果が見込めると考えました。特に、ただ容量を減らすだけでなく、せっかく増やした「魅せるための商品画像」の画質を維持できる、という条件もクリアしていたのが大きかったですね。ビームスやアーバンリサーチなど、他の大手アパレルECサイトでも採用されていることを知っていたので、自信を持ってSmartJPEGを提案することができました。

アフターコロナのEC市場は「最初の起点」の戦場が変わる

三上:

今後のEC戦略において、挑戦したいことをお聞かせください。

堀田:

私はシンプルに「ECは客数とコンバージョン」と思っています。コンバージョンレートは積み重ね。PAL CLOSETは今年の売上高が100億を超えることが確実になっているなど、すでに現戦略の成果が出ています。しかしやらなければいけないことはいっぱいあって、実店舗の稼働がにぶい現在は「どう集客するか」が当面のカギですね。スタッフによるSNSでの発信は維持しつつ、そこは磨きまくります(笑)。同時にブランドなりのアイデンティティをかけ合わせる発信が大事なのかな?……いろいろイメージして考えています。

松本:

逆に課題になりそうな要素は、どういったものがありそうですか?

堀田:

難所はいくつかあると思いますけど、リアル店舗の起点が減ったので、そこで伸ばしていた取り組みをどうするか?でしょうか。あわせて広告などのオンラインの取り組みをどうするか考え直すタイミングですね。「最初の起点」の戦場が変わる。ここが最大の難所で工夫がいるでしょう。

さらに「リアル店舗の買い方」と「EC店舗の買い方」は明らかに違うので、そこを整理して先鋭化していく作業が必要だと思っています。数値をもとにインサイト分析を深めて、「リアル店舗ありきのECの顧客」から「ECしか知らない顧客」にどう焦点を移行していくかが課題だと思います。

松本:

2020年9月に「3COINS」のECをスタートしましたが、「3COINS」と従来の「PAL CLOSET」のユーザー層は異なりますよね? 戦略の変化などはありましたか?

堀田:

3COINSについては、コロナ禍のタイミングということもあり、“巣ごもり消費”の高まりの波を急激に受けました。メディアにも採り上げていただいて、認知度もあがったと思います。ただ、その高まりをパル全体に回すかどうかは、大きな課題だと思います。

3COINSは安さが武器のブランドですが、スピーカーやヘッドホンといった、やや高額な家電グッズも扱っていたりします。リアル店舗だと300円均一であることが楽しみだけど、ECだとコスパがよければ高額でも気にならない。そうしたことを考えると、「リアル店舗の3COINSの楽しみ方」と「ECでの楽しみ方」は違うんじゃないかなあ、とは思っています。これをどう整合させるかに知恵を使いたいですね。

三上:

リアルでもECでも、ユーザー目線で「楽しみ方」を提供し続けるPALCLOSETのさらなる進化を今後も楽しみにしております。本日はどうもありがとうございました。

取材日:2021年9月9日
記事公開日:2021年10月19日
所属組織、業務内容、写真、発表内容等は取材当時のものです。

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