一発ギャグという単語がある。
ギャグマンガのキャラクターやお笑い芸人が使う「決めフレーズ」のことだ。
小島よしおの「オッパッピー」とか、こまわりくんの「死刑!」などがそれだ。(例えが古くて恐縮です)
たいてい、おかしなポーズとおかしな表情で落とす「笑いの必殺技」である。そう、一発ギャグの多くは、その前後の話の脈絡に関係なく、その場のオチをつけるために発せられる。
冷静に考えて欲しい。
「そんなの関係ねぇ、そんなの関係ねぇ、そんなの関係ねぇ、」と、ここまではわかる。次の「オッパッピー!」は日本語ですらない、小島よしおの心の叫びというか雄叫びだ。そこに意味はまったくない。でも観客は、「オッパッピー!」で大爆笑(だった、あの当時)。
大学でギャグマンガを教える身になってみて、はじめて「一発ギャグ」の不思議さに気がついた。「一発ギャグ」は、脈絡もなく意味もなく、突然やってきて読者や視聴者を笑わせる。じつに不思議だ。
本来「笑い」には「理屈」があるものだ。
例えば・・・
復讐すべき敵にようやく巡り会えた主人公が、鬼のような形相で敵に突進していく。
主人公「絶対にきさまだけは許さん!!」、と猛ダッシュ!その瞬間、足下のバナナの皮にすべって派手に転ぶ。
・・・シリアスな展開かと読者に思わせておいて、バナナで転ぶという古典的なギャグ展開、この落差に「笑い」は生まれる。
不条理ギャグマンガにしても、実際はある程度の「条理」がある。
ある有名な不条理ギャグマンガの1本に、こんなネタがある。居酒屋で4人の男たちが「若いころは夢もあったけど、今はもう日々を生きるのに精一杯だ。オレたちサラリーマンの辛さなんて、誰もわかっちゃくれないよなぁ。」と嘆く。4人のうち3人は背広にネクタイ姿。残る1人は、宇宙人。4人でビールをあおって「はぁ~」とため息。
これも不条理とは言いつつも、読者が心の中で「こいつはサラリーマンじゃなくて宇宙人だろうが!」と突っ込むことで「笑い」が発生する。サラリーマンとか言っているけど、どう見ても宇宙人じゃないか、という落差が「笑い」のトリガーだ。
さて、話を戻すが、「オッパッピー」はこういった「理屈」では説明できない。
なぜいきなりヘンなポーズ、ヘンな顔で雄叫びのような声を上げるの?
説明はつかないが、視聴者はネタの途中ではなく、この「オッパッピー」のところで笑うのだ。
格闘技などで、相手に襲いかかるときに発する「どりゃあああ!」とか「だっしゃああ!」とか「とう!」なんかも、意味はなく、いわば「魂の叫び」だ。
デスメタルの「うめき声」も「魂の叫び」だ。言わば、動物の鳴き声に近いものなのかもしれない。理屈じゃなく、DNAがそう叫べと言っているから叫ぶんだ・・・という感じだろうか?
では、「オッパッピー」もそうなのかというと、違う。一発ギャグは、計算して作られ、タイミングも含めて意図的にコントロールされて発せられるからだ。
で、結局いまのところ「一発ギャグ」がなぜ笑いを取れるのか、まだ答えを見つけてはいない。研究を進めて、そのうち読者が「一発ギャグ」で笑う理由を解明したいと思っている。