田中圭一のゲームっぽい日常 絵だけで「味」を伝える高等テクニック

201409_k1宮崎駿監督のアニメに共通するポイントとして「出てくる料理がいつも美味しそう」というのがある。

アニメだから、劇中に出てくる料理の絵はいわゆる「セル画」だ。写真に比べると単調な色彩でのっぺりと塗られた絵になってしまう。

常識的に考えれば写真撮影した料理の方が、はるかに美味しそうに見えるはずだ。にもかかわらず、『天空の城ラピュタ』でパズーとシータが食べたパンに目玉焼きを乗せただけの料理、それもセル画に描かれた料理が、すごく美味しそうに見えるのだ。他の監督のアニメ作品では、これほど美味しそうには見えない。セル画で描かれたチープな料理にしか見えない。

(高畑勲監督の『アルプスの少女ハイジ』に出てくるチーズやパンはすごく美味しそうだったが、あの作品には宮崎駿さんがスタッフとして深く関わっているので、この場合宮崎作品に含むとさせていただきたい。)

さて、なぜ宮崎監督作品だけは食べ物が美味しそうに見えるのか?長い間、私はこの謎が解けずにいた。

ところが先日、とあるマンガ原作者にインタビューする機会があって、ついにその謎が解けたのだ。
その原作者はグルメマンガも手がけているため、インタビューでは「マンガの中で料理を美味しそうに見せる方法」について語ってくれた。

その人曰く「グルメマンガにおいて、最大のクライマックスは料理を見せるシーンではなく、料理を食べているシーン」だというのだ。エッチマンガで言えば「美しいヒロインの立ち姿」ではなく「男性と絡むシーン・濡れ場」こそがクライマックスなのだ・・・こういう例えなら理解できるかと思う。

マンガというのは、たいていペンで描かれたモノクロ画像だ。どんなにがんばって描いても写真に比べて料理を美味しそうに見せるには限界がある。にもかかわらず料理を美味しそうに描写して大ヒットしたグルメマンガが多いのは、料理の画像以外の情報で読者にその味や美味しさを伝えることに成功しているからだというのだ。その情報が「美味しそうに食べている仕草、表情、そして味を伝える言葉」だというのだ。

なるほど!たしかに「天空の城ラピュタ」でパズーとシータが目玉焼きパンを食べたときも、パンの上に乗った目玉焼きだけを徐々に口の中に入れていく描写、あの仕草(パズーとシータの表情も込み)が視聴者に「美味しそう」と感じさせたのだ。おそらく視聴者のほぼ100%が、目玉焼きを食べた経験を持つはずだ。あの仕草を見れば、口の中で黄身が破れて甘みが口の中に広がっていく、あの感覚を脳内で再現できるはずだ。
・・・だから、あのシーンの目玉焼きパンが美味しそうに感じられるんだ。

本当に目から鱗が山のように落ちた瞬間だった。

じつは私も4月から、ぐるなびが主催する「みんなのごはん」というページに料理を題材にした『ペンと箸』というマンガを連載している。

今後は、その連載でも読者の皆様に料理の味をもっともっと感じていただけるよう精進したいと思う。
乞うご期待。

タグ | 2020/06/16 更新 |