田中圭一のゲームっぽい日常 ウェブマンガのこれから

pixiv発のマンガ『ヲタクに恋は難しい』が累計(1巻~4巻)で420万部を超えたとのことである。作者のふじたさんについては、詳しい情報がネットでも見つからないのだが、おそらくそれまではアマチュアであったか、そうでなくともメジャー雑誌で連載を持っていたプロ作家ではなかったと思う。

今、少年ジャンプでデビューした新人でも、はじめての単行本で100万部を売ることは難しい。ここまでの大ヒット作ではないにせよ、50万部、30万部クラスのヒット作がネットの、それもpixivやTwitterという「無料で読めるメディア」から続々と誕生している。アニメ化されたりキャラクターグッズ化された作品もある。アマチュアとして趣味で描いていた人が、出版社への投稿や持ち込み→新人賞→雑誌掲載→連載、というプロセスをすべてすっ飛ばして、いきなり単行本、そして大ヒット→アニメ化→グッズ化という流れが生まれている。

マンガ家になる方法に、今までになかった「あらたな道」が見えてきているのだ。

マンガ家の山科ティナさんは、メジャー雑誌でデビューしつつも、なかなか連載のチャンスが獲得できない状況を、Twitterを使い「ネット発の人気マンガ家になること」で打破した。

CREATOR’S VOICE 山科 ティナさん|「DAIV」すべてのクリエイターに送る究極のPC

このように「あらたな道」を意識的に使って自身の作品を多くの人に知ってもらう作戦に成功した人はここ数年でずいぶんと増えてきた。

マンガ家、つまり「クリエイター」だけではない「プロデューサー」「プランナー」「マーケター」の資質を持ち、自身の売り込み方を心得た人たちだ。

マンガ家のカメントツさんは、自身をキャラクター化して人前に出るときは特徴的な仮面をかぶる。もちろんマンガの中でも同じ仮面をかぶったマンガ家として突撃レポートマンガを描いている。「仮面をかぶった突撃マンガ家」だからカメントツ。フックがあり覚えやすいネーミングだ。

このように自身をキャラクター化する作戦は、ユーチューバー的でもある。

そう、ネットがメディアの中心になりつつある時代で、かつマンガ以外の魅力的なコンテンツが数多く存在する現代には、その時代に即応したスキルが求められる。中身の濃いおもしろいマンガを描いてさえいれば大きな舞台に立てた時代は終わろうとしているのかもしれない。

このような潮流の中で、今まで雑誌が担ってきた役割、編集者が担ってきた役割も変わる必要が出てくるはずだ。特にマンガ雑誌は、マンガばかりが載っている「ひとかたまりの構造」ゆえに、新人のマンガも読者の目につきやすかった。

しかしこれからは、新人マンガ家のデビュー作をネット発とするならば、編集者は前述した「プロデューサー」「プランナー」「マーケター」のスキルを先鋭化する必要がある。もちろんマンガ家自身も出版社を通してデビューするというルートを避けるのであれば、同様のスキルが必要とされる。

この状況を「難しい時代に入った」と考える人もいるだろう。しかし、SNSで発表することで「いいね!」数をマンガ雑誌の「読者アンケート」結果のように活用したり、読者から直接感想を聞くチャンスと考えれば、読者ニーズの把握、作品の改善が誰でもできる時代になったと考えることも可能だ。

また、京都精華大学では、この時代の流れに合わせたマンガ教育の場として「新世代マンガコース」を2017年4月からオープンさせている。

とにかく、変わらない時代などないのだ。
同業者のみなさん、このあらたな潮流を見据えつつ共にがんばっていきましょう。

タグ , | 2020/06/16 更新 |