中央大学理工学部で「工学デザイン概論」の講義を行いました

ウェブテクノロジ代表の小高です。

先日、母校である中央大学理工学部で、ゲストスピーカーとして講義を行いました。大学での講義は、10年ほど前に数年間、慶應義塾大学の非常勤講師をしていたとき以来です。

講義は「工学デザイン概論」。担当教授は竹内健先生で、東芝で長らくNAND Flashメモリの開発に携わってきた新進気鋭の研究者です。
2年ほど前から、日経エレクトロニクス誌や新聞などで、中央大学竹内研究室の研究成果をしばしば目にするようになり、母校の名声が高まり嬉しく思っていたところでした。今回のご依頼をいただき、二つ返事でお引き受けしました。

中央大学理工学部キャンパス

中央大学理工学部キャンパスの新しい校舎 写真提供: 中央大学

講義を依頼された際にいただいたメールは以下のようなものでした。

講義概要:「IT技術の急速な進展によりエレクトロニクス製品を設計、試作、製造するためのコストが急速に下がっている。その結果、製品を「どのように作るか」だけではなく「何を作るか」といったエンジニアリング・デザインが重要になっている。本講義では、座学と簡単な演習を通じてシステムの仕様の策定、システム仕様書の作成、詳細設計、テスト、機能モジュールの完成、システムの統合、試験といったエンジニアリング・デザインの理解を深める。」
このような講義は前例もないため手探りで準備を進めておりますが、実学ですので実際に産業界でご活躍されている方のお話を伺うことが重要であると考えております。

ポイントは「何を作るか」と「変化への対応」

このような方向性の講義で、私自身の経験からなにを伝えられるのか。
やはりこの講義の一番のポイントは、

製品を「どのように作るか」だけではなく「何を作るか」といったエンジニアリング・デザインが重要になっている。

という部分です。小学校から大学まで、日本の教育は基本的に「どのように作るか」を学ぶ場になっています。「何を作るか」の方法論を学ぶ機会は、かなり稀です。

とはいえ、私自身は研究者ではないため、「何を作るか」の方法論をアカデミックに論じることはできません。そこで、これまでの仕事を振り返りながら、「何を作るか」をどのように発想してきたかをお話することにしました。

「なにを作るか」に通じる視点で、私自身が非常に重要だと考えている「変化への対応」も、もう一つの重要ポイントだと考えました。ウェブテクノロジが創業以来23年間で、どのように変化しつづけてきたのか、という話も交えました。

以下、講義内容について簡単にご紹介します。

第1部:ウェブテクノロジのケーススタディ

ベンチャー企業が自社製品を開発するということは、つまり「何を作るか」を自社で考えることです。そして、常に社会状況の変化に対応していかなければ、会社の存続自体が危うくなります。

ウェブテクノロジの変遷を時系列に説明しながら、「何を作るか」をどのように発想したのか、どのように「変化への対応」をしてきたのかお話しました。

  • 第0期 起業までの背景(~1990)
  • 第1期 いざ起業(1991~1994)
  • 第2期 受託開発でようやく軌道に(1995~1999)
  • 第3期 自社製品を柱に(2000~2004)
  • 第4期 超高収益から一転(2005~2009)
  • 第5期 立て直し(2010~2014)

「OPTPiXはこうして生まれた!ウェブテクノロジ設立物語」(前編)、及び同(後編)でお話している内容とかなり重なりますが、リアルな売上・利益の推移のグラフとともに普段はなかなか言いづらい数々の失敗事例についても触れました。挑戦したからこそ失敗するわけで、失敗を恐れず挑戦し、その積み重ねのなかから成功を掴むことを理解して貰いたかったからです。

第2部:会社の寿命

「変化への対応」の重要性を理解してもらうために、会社の寿命に関連して、以下のようなトピックを取り上げました。

  1. 23年で半数の企業が廃業
  2. 超優良企業の30年後の業績変化
  3. ブリヂストンはもともと○袋屋だった
  4. インテルの飛躍は○○開発から始まった

a. 23年で半数の企業が廃業

中小企業白書2011年版 第3-1-11図 を見ると、23年で半数の企業が廃業していることがわかります。この大部分は中小企業と考えられますが、大企業なら安泰、ではないのは、次項で明らかになります。

lifetime

b. 超優良企業の30年後の業績変化

日経ビジネスオンラインの記事「徹底検証、会社の寿命 信用調査会社の“格付け”から割り出す」を紹介しました。

帝国データバンクの評点が1983年時点で60点以上の優良企業が、10年後、20年後、30年後にどのような評点に変化しているかをまとめた記事です。評点80点以上という世界的超優良企業でも、10年後に同じポジションにいるのは半数、30年後にはたった6.3%になってしまったという調査結果です。

私が大学院を卒業したとき花形だった産業の今の姿に重なります。
社会の変化にあわせて自分自身の商品価値を高めつづけることが、最大のリスクヘッジだということを伝えようとしました。

c. ブリヂストンはもともと○袋屋だった

ブリヂストンは、足袋製造販売 → ゴム製地下足袋 → ゴム靴 → ゴムタイヤ という変遷を経て、いまの業種になったことを紹介しました。ご興味ある方は、ブリヂストン物語をご覧ください。

足袋製造販売のまま変化しなければ、倒産していたか、もしかしたら老舗の足袋製造店として生き残っていたかも知れませんが、現在のようなグローバル企業にはなり得なかったはずです。

d. インテルの飛躍は○○開発から始まった

Intel 4004

Intel 4004

インテルはメモリの製造会社として創業しましたが、受託開発案件からCPUが生まれました。日本のビジコン社から電卓用ICの受託開発・生産の依頼を受けたのがきっかけ、という話は有名です。

創業当初のインテル社は開発リソースが少なく、ビジコン社が要求する多品種の設計ができないため、それを解決する手段として、マイクロプロセッサで実現するというアイディアを生み出しました。それが、かの4004です。

顧客の目的を叶えつつ、顧客のいいなりではない独創的な手段で解決するという方法でも、「なにを作るか」を考えることができるという実例として紹介しました。

第3部: その他伝えたいこととまとめ

 シーズ優先とニーズ優先

イノベーション論やマーケティング論で良く出てくるシーズ(seeds)優先とニーズ(needs)優先についての話です。当社の製品を例にとると、以下のように分類できます。

シーズ優先製品の例
  • OPTPiX減色エンジン
  • コミPo!
ニーズ優先製品の例
  • OPTPiX減色エンジンのゲームツールへの応用(imésta)
  • SpriteStudio
  • OPTPicture

減色エンジンのOPTPiXというシーズがゲーム産業のニーズと結びついて、iméstaという業界標準製品が生まれたというのは、シーズとニーズの相乗効果による典型例と言えるでしょう。

営利企業(会社)の目的

当社の理念と共通する内容が載っていた記事を引用して紹介しました。

営利企業(会社)の目的は利益を上げること、すなわち金儲け、そう言い切っていいか。安定的に利益を上げ続けている優秀企業は利益を目的にしていない。そういう調査結果がある。「世のため人のため」という社会貢献を企業文化として持っていること、これが優秀企業であるための条件だという。金儲けそのものを目的にしている会社は、顧客の信を得られず、社員のモラルを維持できず、目的であるはずの金儲けができなくなる。

しかし社会貢献(顧客への価値提供)を続けるためには、利益を出し続けなければならない。利益を出さないと会社はつぶれ、目的の社会貢献ができなくなる。この逆説は痛切だ。金儲けを目的とすれば金儲けができない。しかし手段としての金儲けを続けないと、目的の社会貢献が続けられなくなる。

日経エレクトロニクス No.1134 2014/5/12 「電子立国は、なぜ凋落したか 後編」よりなお、同記事は書籍「電子立国は、なぜ凋落したか」として出版されました。(Amazonのリンクはこちら)

まとめの言葉

講義の最後は、以下のように締めくくりました。

webtech_logo20140709

当社のロゴマークは変化し続けることの象徴です。何を作るかを考え続けながら社会の変化に対応してきました。
常に「誰にどんな価値を提供するのか」を考えてください。
社会に貢献している人、会社だけが生き残れます。
価値を提供しつづけるためには、常に変化を受け入れ、成長し、挑戦しつづける必要があります。
その原動力になるのは、情熱だと思っています。
ぜひ、自分が情熱を持てる仕事をつかみ取ってください。』

講義を終えて

担当の竹内教授からざっくりとしたお題をいただいてから、自分なりにポイントを抽出して90分の講義を行いました。これはまさに、当社が創業当時から行ってきた提案型受託開発と同じタイプの仕事です。かなりアタマに汗をかく仕事ですが、顧客の潜在的な要望に応えられたときには、なんともいえない充実感があります。

竹内先生には大変共感をいただき、また失敗事例を多く織り込んだところは貴重であると、お褒めの言葉をいただきました。来年の同講義のご依頼もいただいたので、顧客の要望に応えられたのかなと安堵しているところです。

タグ , | 2022/09/29 更新 |