田中圭一のゲームっぽい日常 自説を曲げなかったら正しかった件

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あれは1996年の秋だったと思う。

プレイステーション版「ときめきメモリアル」が大ヒットして、私の周囲でもハマっている人が数多くいた。ご多分に漏れずボクもハマって、ときメモ以外の恋愛シミュレーションにまで広く手を出すくらい夢中になった。当時はゲーム会社に勤務していたこともあって、ボクはこう思った。

「男がこれほど夢中になってしまう恋愛シミュレーション、女性向けを作れば大ヒットは間違いないはず。」

当時も今も女性たちは恋愛ドラマや恋愛マンガに夢中だった。そう、その企画は「インタラクションできるトレンディードラマ」だ。女性が夢中にならないはずはない。

しかし、そう力説するも、当時社内のゲームプランナーたちは口を揃えてこう言った。

「女性は男性とちがって、お金を払うなら、なにかの見返りがないとプレイしてくれない。その証拠に女性がゲームセンターで熱を上げているのはUFOキャッチャーかプリクラだけだ。」
「女性は現実的だからデジタルデータの男性に夢中にはならない。」
「アダルトアニメの例を見るまでもなく、架空の異性に夢中になれるのは男性だけだ。」

・・・とまぁ、けんもほろろにボクの意見は否定された。

でも、その時ボクはガリレオガリレイの「それでも地球は回っている」よろしく、心の中で「少女漫画に出てくる男性だって架空のキャラじゃないか。」と呟いた。

ボクの正しさが証明されるのは、それから数年後のこと。コーエーの「アンジェリーク」が一部の女性にヒットしはじめてからだ。今では女性向け恋愛シミュレーションはジャンルとして定着している。架空の異性との恋愛を楽しむことに性差はなかったのである。

 

さて、話は変わるが、マンガがスマホやPCで普通に読まれるようになってかれこれ5年くらいになるだろうか?

今マンガが直面しているのは「どうやってデジタルマンガでマネタイズするのか?」という問題である。紙の本は売れなくなり、代わってデジタルデータでテキストやマンガを読む時代に入りつつある。しかし、これは単に「読む装置が変わった」だけの話ではない。紙の単行本に比べるとデジタルデータは安価だったり、バーゲンされていたり、サイトによっては無料で読めたりする。つまり、このままデジタル化が進むに連れ、今までのようにマンガを単行本にしてヒットさせ印税で豪邸を建てるというジャパニーズドリームが崩れ去っていくことになりそうなのだ。多くの出版関係者もデジタルデータでは儲からないことを予測している。

だが、ボクはこう思っている。「ソーシャルゲームが課金ビジネスで大成功しているじゃないか。同じデジタルデータであるマンガだってやり方を工夫すれば無理な話ではないはずだ。つまり、ゲームなら「ああっ!・・・ここで体力回復の薬があれば、先のステージに進めるのに!無料でプレイしてきたけど、ええい!薬を買うぞ!」という心理にプレイヤーを誘導しているわけで、マンガだって同じ方法が取れるのではないかと思っている。

しかしながら、この意見も多くの出版関係者によって、けんもほろろに否定されてしまっている。「ゲームとマンガは本質的に違うコンテンツだ。インタラクションの概念がないマンガに、ゲームと同じ課金のノウハウは使えない。」という意見が圧倒的だ。

はたして本当だろうか?ボクは懐疑的だ。例えば『ガラスの仮面』や『DEATH NOTE』を途中で止められるだろうか?『デビルマン』をラスト1巻だけ残して読むのを止められる人がいるだろうか?つまり、無料で読み始めたマンガの「どこを課金ポイントにするか」で、マネタイズは十分可能なのではないかと思うのだ。

例えば全5巻の『デビルマン』は各巻を300円(計1,500円)で売るのではなく、1巻は無料、2巻は100円、3巻は200円、4巻は400円、5巻は1,000円とすれば、読者は納得して課金してくれるし、合計金額は1,700円になって、均等の値段で売るより200円も多い。こういった課金タイミングを工夫するだけでゲーム的なマネタイズは実現できると思っている。

とにかく、この答えは数年後に出るだろう。はたして「アンジェリーク」の時のように「そら見たことか!やはりボクの言ったとおりだったじゃないか!」と言える日がくるだろうか?みなさん、お楽しみに!

タグ , | 2020/06/16 更新 |