田中圭一のゲームっぽい日常 30万部の壁、越えたときに思ったこと

30年以上マンガ家を続けて来て、常々思っていることがある。
マンガ家の勝ち組と負け組を分けるボーダーラインは「1冊あたり30万部を売った実績があるかどうか」だ。
累計ではなく1冊で30万部だ。一度でもそれを達成した人は、作品ではなく作家名を読者から覚えてもらえる。(それ以下だと作品名しか覚えてもらえない。)

当然ながら30万部を越えるということは、マンガ好きな人(いわゆる「マンガ読み」)だけではなく、普段マンガを読まない普通の人にも作品名や作家名を知ってもらえる。

結果として、作家名がブランドとなり、それで商売ができる。つまりは、それが勝ち組だ。エッセイマンガの世界では西原理恵子さんが、その代表例だと思う。

一方ボクの場合、サラリーマンとの兼業という金銭的な安定と、パロディ&シモネタというニッチなジャンルを選び、細々と歩んで生き残ったものの、とても勝ち組とは言えない。

今年、『うつヌケ』が33万部のヒットになり、ようやくマンガ好きではない普通の人にも作品名を知られることになった。55歳にして、ようやくの30万部超えだ。もしも、これが20代で放ったヒットであったなら、ボクの性格からして間違いなく天狗になっていただろう。

しかし、今だからわかる。この33万部はボクの実力だけで達成できた数字ではない。担当編集者による高い精度のネームチェック、単行本担当者のパッケージデザイン、広報担当者によるパワフルな広報活動、勇気を持ってうつヌケ体験を告白してくださった方々、そして、ボク自身の「うつの人を救いたい」という思い、これらの総合力による結果だと思う。

その証拠に、30年以上も必死になって新しいジャンルのギャグマンガを開拓して来たにもかかわらず、それまでのボクのマンガは最高で10万部しか売れなかったのだ。

コンテンツというものは、どんなジャンルであれ作り手側の「ヒットさせたい」という思い、それが結晶となって世に出てくる。にもかかわらず、思い通りにヒットする作品はごく一部だ。そこには運や時流の波など、予測不可能な要素が影響するからだ。

なので、ヒット作は楽に出せたりはしないし、1人で作ることは不可能だ。
ヒット作を出せたとしたら、そこには多くのスタッフ・関係者の力があることは忘れてはいけない。

ということで、昨今ネットでなにかと叩かれがちなKADOKAWAさんですが、ボクにとっては優れた人たちと仕事ができるありがたい出版社でした。
あらためて関わっていただいた方々に感謝いたします。

そして『うつヌケ』を読んでいただき、感想や感謝のお手紙を送っていただいた方々へ、返事を出せてはおりませんが必ず目を通しております。ありがとうございました。

なんか、後半は「KADOKAWAのサイトで語れや、ウェブテクノロジのブログで言うことかよ。」な内容になってしまいましたが、まぁ大目に見てください。

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