田中圭一のゲームっぽい日常 根回しの暗黒面

最初に・・・

今回紹介する実話には、多少の脚色を入れて実在の会社・個人を特定されないようにしていることを了承して欲しい。

では、本題。

長くサラリーマンをやっていて「社内の根回し」、その重要性を痛感することが多かった。プロジェクトを円滑に進める上で、他部署との情報共有・人的コミュニケーションがその成否の70%くらいを決めると言っても過言ではないと感じている。

ただ、「社内の根回し」にはフォースのように「暗黒面」もある。

ある会社で「新規事業の立ち上げ」を任されたことがある。その会社がやっている事業とはかけ離れた、異業種の、かなりチャレンジャブルなミッションだった。予算もメンバーも少なく、成功の可能性も低そうに思えたし、万一立ち上げに成功しても黒字を出すのに何年もかかりそうな難しい仕事だった。ただ、その時のボクは根拠のない自信に溢れていたので「やってみせます!」みたいなことを当時の部長に宣言したことを覚えている。

その時、同じ部署の後輩Aは「そんな新規事業は会社にとって必要ないし、田中さんに任せても成功しない。」ということを部長に進言していたらしい。その予想を裏切って、約9ヶ月後、ボクはなんとか新規事業はスタートさせた。そこまでには想像以上の苦労があり、一時期は白旗を揚げようかとも思ったのだが、いくつかの幸運に恵まれミッションは完了した。

ただ、当然ながら新規事業が黒字化するには2年近くかかる見込みだった。なんとかがんばって、それを縮めるのがボクの次のミッションになった。このあたりから、部長のボクへの態度が悪くなってきたのだ。ボクの提案も進言も否定されることが多く、日に日にやりにくく感じていた。

部長が不満だったのは、新規事業をスタートさせるまでのボクの仕事のやり方であった。とても難しいミッションだったので、簡単に言うと、いくつかのフライングやドーピングをやってスタートに漕ぎ着けたのだ。

だいたい、「難しい新規事業の立ち上げ」を100点でクリアすることは不可能だと思う。70点でクリアすれば御の字だと思っている。なのに部長は、その-30点の部分を徹底的に突いてきてボクをこき下ろした。いささかヒステリックな感じさえしたのだ。そもそも新規事業の立ち上げをボクに任せたのは部長だし、ミッションの途中においても部長から待ったがかかることもなかったのだ。なぜ、スタートしてから、そんなことを言ってくるのか不思議だった。

ほどなくして、ボクはその新規事業の責任者から外されることになる。そろそろ黒字化にさしかかるというタイミングだったのでものすごく抵抗したのだが、人事権は部長にあるので抗うことはできなかった。

後任として責任者になったのは、新規事業を反対していたAだった。その後Aは、新規事業で年々黒字を伸ばしていき、その会社にとってなくてはならない大黒柱に育て上げた。

で、ボクは思った。

あのタイミングで新規事業を引き継げば、誰だって黒字化は可能だし、当時の業界トレンドを考えれば、年々伸ばすことも難しいミッションではなかった。ボクがやっても同じ結果だったはずだと。

いくらそうは思っても、それは仮定の話。ほどなくしてボクは、その会社を去ることになる。

それから5年くらい経ったころ。ボクはひょんなことからAの部下という男と飲むことになった。仮にBさんとしよう。Bさんとは面識はなく、ボクが会社を去ったあとに入った人だ。そこで聞いた話だが、Aは新規事業がスタートしたころ部長と頻繁に飲んでいて、どうも私の悪口を吹き込んでいたらしい。

もっとも、新規事業を立ち上げる過程でボクもストレスが溜まって、時々部長の悪口を影で言っていたのだ。人伝えに部長の耳に入るのもおかしい話ではない。それと同時に、フライングやドーピングの件もAが部長にチクったということもわかった。

考えてみれば、ミッションの途中で部長にフライングすることやドーピングすることを相談すべきだったのかもしれない。根回しが上手ければNoと言われることもなかったはずだ。

かくして、Aはボクが立ち上げた新規事業、それが軌道に乗ってくる段階でボクを追い出して責任者のイスに座ることに成功した。

ダーティーなやり方だな、と思わなくもないが、ある意味かしこい、そして効率的なやり方でもある。Aはボク以上に仕事ができる人だったので、そんな方法を取らなくても出世できただろうに、と思う。しかし、「デキるオトコ」とは、実力+世渡りの力、その両面を備えていてこそなのだろう。

考えてみるとボクは会社員としてはすごく不器用な方だった。マンガ家としてはすごく器用なのに。

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