田中圭一のゲームっぽい日常 デフォルトで敵がいる人

何回か転職した際、ある会社でボクの上司になる方から、こんなことを言われた。

「これから上司と部下という立場で一緒に仕事をしていくうえで、ひとつ君に約束して欲しいことがある。私がどれほど周囲と対立しようとも、君は必ず私の側に立つこと、だ。」

唐突になにを言いだすのかと思ったものの、部下は上司に従うのが組織の常なので「わかりました。」と答えておいた。

なぜ、上司になる人はボクにそんな約束をさせたのか、一緒に仕事をしてみて間もなく理由が判明した。この上司、とにかく周囲と対立してばかりの人だったのだ。人の意見に耳を傾けようとしないし、なにかと自分のやり方を押し通すタイプだった。それもかなり強引に。

それなりに仕事のできる人ではあったが、とにかく周囲は敵だらけ。そしてボクも、その上司の腰巾着だと思われていた。そうすることが約束だったからだ。

長くサラリーマンをやっていて、このタイプに何回か遭遇している。当人は「周囲と揉めてばかりいる」という自覚がなく、敵に囲まれるのはデフォルトなのだ。なので、一緒に仕事をする人を常に「敵か味方か」という視点で見ている。おそらく小学生くらいからいつもこういう流れに身を置いていた人なのだろう。

ボクはどちらかというと周囲の顔色をうかがい、できる限り対立しないように生きてきた。日和見主義者であり、風見鶏のような生き方である。それの善し悪しは別として、お陰様で周囲の人を「敵と味方」に色分けしなくてすんでいる。そもそも、人を「敵」「味方」のどちらかに分けて考えるのは「偏見」だと思うし、なによりも「敵」のレッテルを貼った人と手を組めないのは仕事の上で「損」だと思う。

一方、その上司は「敵をどうやって駆逐するか」に余念がなかった。もちろん「敵より大きな成果を上げて、敵の発言力を弱める」といった前向きな作戦から「ネガキャンを張って敵の信頼を落とす」という後ろ向きな作戦まで手段を選ばなかった。

ボクからすれば「なんでそんな無駄なことにエネルギーを使うのか」と理解に苦しむことも多かった。しかしながら派閥争いの例を持ち出すまでもなく、どこの組織にも戦いはつきものだ。その上司はそれなりに成果を上げたものの、強引なやり方に周囲は次々と「敵」に回っていき、ついに味方はボクだけになった。その時点で会社は上司を別の部署に異動させた。当然と言えば当然の結果だった。

最終的にボクは入社時の約束を守ったのだが、上司がいなくなったあと周囲との関係改善に想像以上の苦労を強いられた。

今にして思うとあの上司は、意図して敵を作り、それを駆逐していくことで承認欲求を満たしていたように思える。価値観の違いと言えばそれまでだが、一番苦手なタイプだった。

その後、その上司はどうなったかと言うと、異動した部署でも同じ事をくり返し、数年後に退職していった。仕事はすごくできる人だっただけに、もう少し周囲と仲良くすることを覚えてくれればよかったのに、と思う。

タグ , | 2020/06/16 更新 |